議決権開示に悩む運用会社

金融庁が5月に改定した機関投資家が守るべき行動規範(スチュワードシップ・コード)では、株主総会で投じた賛否を個別に開示するか、しない場合はその理由の説明を求めている。まず筆者にはこの理由がわからない。

その昔、生命保険会社は正に「もの言わぬ投資家」の代表のようなもので、銀行などが安定株主として生命保険会社に求めていたものは「白紙委任状」であった。若しくは、銀行の経営サイドの意向に沿うように議決権行使を行ってくれることであった。護送船団方式に物わかりの良い安定株主、正に銀行の経営者がのんびりと暮らせた時代の話だ。こうした事への反動なのだろうか?

ただ、実はさすがにその状態は今ではなくなり、生命保険会社をはじめ大半の機関投資家はきちんと議決権行使をするようになってきている。ただ90年代半ば頃まではこの株主としての権利については、機関投資家は極めて意識が低かったと言える。少々、昔語りをさせて頂く。

これは筆者が経験してきた実際の話だが、90年代半ばごろまでは、信託銀行の信託勘定などを使って運用される投資信託、特金や金外信が保有する株式については、その議決権行使は愚か、株主優待などの処理も極めて不明瞭なままであった。かつて某証券会社の株主優待では「お米」が配られていたのだが、そのお米が運用会社に届けられたことは無かった。一説によれば、信託事務部の行員たちで山分けしていたという。映画の無料券やディズニーランドやピューロランドの無料券は、若手の間で奪い合いだったと聞く。

こうした話が明るみに出た時点で「換金可能な株主優待(航空会社の株主優待券など)は、換金して信託勘定に入金すること」が信託銀行に求められるようになったが、日清オイリオなどが配る自社製品の詰め合わせセット(今でも結構魅力的です)などが、信託銀行から運用会社へ届けられたという話は聞いたことが無い。確かに、運用会社が運用する資金は受益者のものなので、そうした品々を送られても、それはそれで処分に困るのだろうが・・・。そう言えば、日銀の蔵にはこうした品々が山積みになっているのだろうか?

話を元に戻そう。議決権行使の話。投資信託のファンドマネージャーとして、ある日、投資先の株主総会議題に対して「賛否の表明をしたい」と信託銀行に申し出たところ、丁重に「信託銀行名義の株式ですので、運用会社様からのご提案は受け付けておりません」と明確に断られたことがある。かなり憤慨した覚えがある(確か投資家向けレポートにもその旨を記載したと思う)ので間違いない。その後、確か2,3年経ってから「当行が所有する議決権の中で○○%は賛成、或いは反対の意向を示しております」という形で議決権が行使されるようになった。これが2000年代に入ってからの真実の話だ。企業を調査し、企業に惚れ込み、「株主になりたい企業に投資をした」のだから、株主として当然議決権を行使したいと思うのは当然の話。状況もよくわかっている。でもその道が開けてから、未だ間違いなく20年は経っていない。

ただ、その個別の賛否についてまで、スチュワードシップ・コードの名の下に白日の下に晒し 開示し、オープンにせよというのは、些か話が行き過ぎているように思うのは筆者だけであろうか。白紙委任ではなく、また持ちつ持たれつの馴れ合い関係の賛否投票の場合を除き、そこまでは必要ないのではないだろうか?寧ろ行き過ぎた行政指導のような気もするが如何に。

一方で面白いのは、ここでも件のGPIFなど4つの公的年金は6月上旬、連名で個別開示を求める文書を運用会社に送ったが故に、大半の大手機関投資家が個別開示に応じるということである。確かに、2000年代半ば頃から、運用会社も議決権行使を真剣に議論するようになったが、アクティブ運用のファンドが個別具体的に調査し投資判断を下した企業のそれと、インデックス・ファンドで機械的に投資している企業のそれでは、全く議題議論の俎上が違いすぎる。

日経平均採用225銘柄ならまだ多くの人も知っている企業ばかりだろうが、TOPIX型のインデックス・ファンドの場合、(500銘柄ぐらいに入れる場合もあるので)コンピューターが勝手に選んだ銘柄が含まれる。そして何より、その数たるや膨大である。本当に取締役選任の一人一人の素性と適正まで判断して意思決定できるのであろうか?実際にどう行われているのか生々しいところを書くわけにはいかないが、決してそう褒められたものではないとだけはお伝えしておこう。

筆者の意見としては、議決権の個別開示の必要性は無い、但し、その事跡は一定期間残すものとし、金融庁(若しくは各所属協会団体)にだけは報告を行う。別に一般の縦覧に供するようなところにさえ開示しなければ、金融庁も運用会社も納得し、本来の目的を果たすのではないだろうか?