プロテクトライン付き投資信託を考える

1.「一度値上がりしたら、そこから値下がりしないファンドは作れないのか?」

誰でも一度手にした値上がり益は手放したくないもの。ましてや、一度良い水準かなぁと思うところまで値上がりしたのに、手放し損ねて凹んだ状態になってしまった時は、かなり失望するもの。なので、

「一度値上がりしたら、そこから値下がりしないファンドは作れないのか?」

という宿題は、過去綿々と商品開発現場に要望され、そして私たちを困らせてきた。中には「ミドル・リターンで良いんだ。その代わり、ローリスクな商品を作ってくれ」と理論を無視した要請も以前には結構あった。残念ながら、どんな時でも「リスクとリターンはトレードオフ」。片方だけ小さくしたり、大きくしたりすることは無理。これだけは肝に銘じておいて欲しい。だから本当は、大きく儲かった時は、その次の糧とするために「どんなリスクを取った結果の報酬だったのか」ということを必ず考え、理解しておかないと、二匹目のドジョウには決して貴方は出会うことが出来ない。

2. プロテクトライン付き投資信託を考える

さて今日の日経新聞朝刊(広告8面)によると「日本初登場。プロテクトラインがついた投資信託です。」と大きく歌われた「あんしんスイッチ」なるファンドが本日より発売になるとか。ちょっと内容に興味があるのでさらさらっと調べてみた。

私の見立て:投資家は安心は出来るかも知れないが、決して儲かる気がしない。寧ろ、暫く保有させられた挙句に上手くいって10,000円のまま、下手をすれば9,000円で繰上げ償還されて終わり。

形式要件としては、流石にフィディーシュアリー・デューティー宣言もあったことから、販売時の募集手数料はゼロ、解約時の信託財産留保額もゼロということでどちらも◎。

3. 内容の割には運用管理費用等がちょっと高い気がする

しかし、ETFを投資対象とするファンドにしては、運用管理費用(信託報酬)・保証料が合計で年率1.4404%(税込)以内というのは、ちと高い。これがどう投資成果に影響してくるかは後述するとして、この年率1.4404%の中に、運用会社の親会社向けの保証料が年率0.22%含まれている。すなわち純粋な運用管理費用は年率1.2204%(税抜1.13%)だと言う。ダイナミック・アセット・アロケーションなどの投資手法を駆使してプロテクトラインを保全するのではなく、単純に親会社に割れた分の保証を任せたスキームと言える。

分かり易く実額で示すと、投資家がこのファンドを100万円で購入したとすると、運用管理費用(信託報酬)として年間12,204円を払い、運用会社の親会社に保証料として2,200円支払うことになる。これを高いとみるか、安いとみるかは、投資家が判断すべきところだが、もし向こう一年間にこのファンドが何も運用しなかった場合でも、一年後には基準価額は9,856円まで下がるということ計算だ。

4. プロテクトラインが元本水準まで上がるためには・・・

プロテクトラインが元本水準である10,000円になるためには、基準価額が10,600円に上がる必要があり、一年間の時間経過を無視して単純に計算すると、10,600円-9,856円=744円を稼ぎ出す必要がある。パンフレットには、このプロテクトラインが段々上がっていくようなイメージを想起させるような文言が並ぶが、年率約7.44%の運用成果を期待されるなら、そのハードルは結構高い。日経平均株価は現在概ね20,000円、つまり概ね21,500円まで向こう一年間で上昇することと対価と言えば分かり易いかも知れない。但し、これは日本株のETFに100%ピッタリ投資していた場合の話なので、早速本ファンドの運用手法を見に行ってみよう。

5. どうやって稼ぐのだろうか?

運用手法の説明の項には「世界の株式、債券および短期金融資産など、さまざまな資産へ投資し、資産配分を機動的に変更することにより、基準価額がプロテクトラインを上回るように運用しつつ、安定的な収益の獲得を目指します。」という記述があり、株式100%になることは勿論有り得ない。更に基準価額とプロテクトラインの開きが小さい場合(数値での明示は無し)は、資料のパイチャートによれば、市場見通しが弱気だとすると「債券が概ね20%前後で、短期金融資産等が残り約8割で株式はゼロ」となっている。因みに強気な場合でも「株が5-7%程度、債券が25%程度で残りは短期金融資産」となっている。

一方、プロテクトラインまでの開きが大きい場合(同じく数値明示無し)では、弱気な場合で株が約15%程度は入り、債券が40%程度、残りの40数%は短期金融資産とあり、強気な場合で株等、債券、短期金融資産が1/3ずつとある。これはあくまでイメージ図だというディスクレーマーは入っているが、逆にこれを大きく逸脱することは、投資信託のルール上、手間暇の掛かる段取りを踏まないとならないので、株等が100%などになることは有り得ないだろう。

6. 昨今の市場環境を踏まえて考えてみた結論

さて昨今の市場環境・投資環境であるが、ご承知の通り円金利は無担コールO/Nが-0.69%、新発の10年国債が0.075%である。ETFに投資するということになると、短期金融資産と債券からのリターンは殆ど考えづらい。ましてやこれからは金利が上昇する(債券価格は低下)局面であるから、ネガティブ・リターンを返す可能性も高い。米国債券10年物の利回りが現在2.30%程度であるから、海外に出ても、クレジットリスクなデュレーションリスクを取り、更に為替リスクに晒して、どの程度のリターンが取れるのか?というところだろう。為替を完全ヘッジしたら、円金利に裁定されてしまう。

となると、期待の稼ぎ頭の打ち出の小槌は株等のみとなるのだが、最大に組み入れて約33%前後、このボリュームで先程の必要な稼ぎを全部生み出すとなると、一年後に日経平均株価換算ならば24,500円までは最低でも上昇していないと、プロテクトラインは10,000円まで上昇してこない。

その結果何が起こるかと言うと、毎年の費用だけ継続的に支払うことになる。年間約144円、5年で720円となって基準価額はそれだけで9,280円となってしまう。この時のファンドのアロケーションは、運用サイドが強気か弱気かによるが、強気の場合、株も数%入っているので、9,000円割れに近づくのは割と容易い。そしてそこに一年滞留していれば、再び年間コストの約144円がチャリンと天引きされて、9,000円の繰り上げ償還水準にジワジワと近づいて行ってしまう。因みに7年間で144円×7年間>1,000円となってしまうことは、販売サイドも、お客様もよくよく理解してから買うべきファンドだと思う。