プロテクトライン付き投資信託を考える(その2)

プロテクトライン付き投資信託の運用レポートが出てきたので、少しフォローをしておきたい。

1. 設定後1か月経過の運用レポートを繰ってみる

まずどうやら新規の募集設定は販売会社の多大な努力と、半沢直樹、もとい堺雅人さんを起用した盛大なCM効果もあって成功したようである。当初募集で600億円、バランス型ファンドとしては実に2007年以来、約10年ぶりの大型設定となったようである。

運用レポートの基準日(8月31日付)のファンドの状態は、基準価額が9,987円(△0.13%)、プロテクトラインが9,000円、純資産総額が875.4億円、それが10月3日付では純資産総額が1,232.85億円 と順調に残高は伸ばしている。

残高の伸びに比べると残念なのは基準価額が殆ど横ばいで伸びていないことが挙げられる。8月31日付では9,987円と元本割れ、10月3日付では僅かに回復して10,030円である。

本ファンドの運用レポート(2017年8月31日現在)に、ちょうどアセット・アロケーションの詳細が記載されているので、それを参考に現状を評価すると、どうやら「経済と市場見通し」については「弱気」の部類に入り、「基準価額とプロテクトラインの差」については「大きい」状態という前提となっているようだ。これによると、株式の組入比率は合計18.4%(先進国株式 16.9%+新興国株式 1.5%)、債券の組入比率は合計58.1%(先進国国債 16.6%、新興国国債1.8%、グローバル投資適格社債 31.7%、グローバルハイイールド社債 8.0%)、そして現金相当の短期金融資産等が23.5%となっている。

 2. この先、どうなっていくかを予想してみる

設定から既に1か月が経っているので、既にファンド構築は終わっていると想定出来るので、この先、このファンドがどのようなパフォーマンスを挙げていくかを予想してみたい。昨今の市場環境・投資環境であるが、2017年下半期入りし、円金利は無担コールO/Nが概ね△0.47%程度、新発の10年日本国債が約0.075%程度、米国債10年物が約2.34%程度、日経平均株価は20,400円78銭、NYダウが22,557.60ドルとなっている。上記数値は参考までに2017年10月3日付け。

まず短期金融資産からのリターンは当然のことながら期待できない。良くて0%といったところだろう。債券のデュレーションが分からないので、期待リターンを細々計算はしないが米国債10年の足元水準が2.34%で金利上昇局面、更には外貨建て資産も原則的には為替ヘッジをするとあるので為替差益が出ることも大きく期待しづらい。何れにしてもそう大きくは期待出来ず、おまけして米国債金利分と仮定して2.34%を仮置きする。

3. スイッチを入れることは出来るかどうか?

2017年10月2日の本ファンドの基準価額は10,023円(純資産総額 1,210.85億円)。次のスイッチの10,600円に達してプロテクトラインを元本10,000円とするためには、基準価額で5.75%の上昇が必要となるため、前述のコスト年率約1.44%を加味して、この先1年以内に7.19%の投資収益がファンドとして稼げれば、ネットで10,600円を超えてくることになる。これをまとめると下のような表を作成することが出来る。

株式がX%上昇すれば、Y%分の貢献となり、結果としてファンド全体の投資収益が7.19%を超えることが出来れば、めでたくスイッチが入って、ファンドのプロテクトラインは元本10,000円となる。仮に方程式を解いて数値を求め、前述の日経平均株価とNYダウでそれぞれその水準感を計算すると、

A) 日経平均株価:20,400円78銭 × 131.68% = 26,863.74円
B) NYダウ :22,557.60ドル × 131.68% = 29,703.84ドル

という期待値を導くことが出来る。一年以内にこの水準に株価が達すると思うかどうかは、各自の思惑と考え方次第である。翌年以降ならば、コストを更に載せていくことになる。

4. スイッチが入らないとどうなるだろうか(コストを稼ぐ)

さて、株価がこの水準まで上昇しないとなると、プロテクトラインが9,000円よりも上がってくることは残念ながら無い。しかし一方で、毎年費用だけは継続的に支払うことになる。仮に年間約144円分を稼ぎ出すために、今のアセット・アロケーションであれば、株が幾らになれば良いかも計算できる。その水準は下記の通りとなる。

A) 日経平均株価:20,400円78銭 × 101.47% = 20,700.67円
B) NYダウ :22,557.60ドル × 101.47% = 22,889.19ドル

5. 問題点の整理

問題点があるとすれば何かと言えば、元本の安全性に注目するあまり、かなり慎重な運用を志向した上で、「あんしんスイッチ」というアイデアを取り入れるために余計なコストを付加してしまったことにありそうだ。販売の現場を想像するに、その当初設定額とその後の純資産総額が証明するが如く、非常にお客様には説明がし易く販売が容易なのだろうと思う。国際分散投資の効いたバランス型ファンドで、中身はパッシブ運用のETFで、尚且つ「あんしんスイッチ」付き。募集手数料もゼロなら、信託報酬総額も決して業界水準的に高い方ではない。販売サイドから見れば、旬なテーマものとアイデアを上手く組み合わせている。恐らく、このファンドは販売サイドがリードして作ったファンドだと想像がつく。ただ惜しむらくは、投資による収益をお客様が実際に得られる可能性が、極めて低いということだ。

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