連載14 新入行員諸君!リスク商品でござる(お客様を知る_9)

6つ目の項目は「資産運用の専門家のスキルをどこまで信じているか」という観点。

1. 専門家へのコストは対価と見合うのか?

ファンドマネージャーやフィナンシャル・アドバイザー、俗に資産運用のプロフェッショナルと言われる人たちに、高い報酬を払っても、それに見合うだけの投資収益を上げてくれるのかどうか。その対価に見合う価値があるのか、無いのかという観点である。

ここ数年は「アクティブ運用」のパフォーマンスは不芳と言われているので、「永続的にベンチマークをアウトパフォームするファンドマネージャーは居ない」という通説が真実味を帯び、結果としてコストが安い「パッシブ運用」(※インデックス運用が主体)が世の中の潮流となってきている。この流れの中で「資産運用の専門家のスキルをどこまで信じているか」という議論をするのは、ファンドマネージャーやフィナンシャル・アドバイザーに取っては分の悪い議論となるであろう。

2. プロフェッショナルとは

嘗て「自分はプロのファンドマネージャーですから・・・」と迷言を吐きつつ、逮捕された人も居たが、「その分野で生計を立てていることをプロフェッショナルと言う」という観点では、ファンドマネージャーにも、フィナンシャル・アドバイザーにもプロフェッショナルは沢山いる。しかし「プロに任せても必ず儲かるとは限らない」という言い方の時のプロフェッショナルの語感、すなわち「100発100中のゴルゴ13」という意味においては、資産運用の世界にはプロフェッショナルは居ない。また同業者の中で「あいつは凄い、プロだね」と認められている人も、そう多くは居ない。そんな考えがあって、私は自らを「職人気質のファンドマネージャー」とは思うが、プロフェッショナルと自ら言ったことは一度もない。逆に一方では、この世界には安易に自分をプロフェッショナルと自認する人が多過ぎると思っている。

3. 資産運用の専門家

ならば、資産運用の専門家に任せるとはどういう意味か考えてみたい。前回、適切な投資判断をするには継続的なリサーチや分析などが必要で、それが煩わしいと思う人が居るということを綴ったが、正にそれを生業として24時間、寝る時を除いて市場のことを考えている人が資産運用の専門家だと私は定義したい。実際にはここまで厳しく定義をすると、資産運用のプロフェッショナルを自認している多くの人さえ、資産運用の専門家から脱落してしまうと正直には思うのだが、専門家と呼ばれるとはそうした厳しいものであると考えている。そして、その専門家に任せると効用があるのか、無いのかという今回の本題である。

4. 効率的市場仮説

金融経済学の中で教える「効率的市場仮説」 (英: efficient-market hypothesis, EMH) という理論がある。すなわち「市場は常に完全に情報的に効率的であるとする仮説」である。ここで言う「情報的に効率的」であるとは、金融市場における金融商品の価格が、その商品の価値を決定づける情報の全てを瞬く(またたく)間に普く(あまねく)反映しているという意味である。効率的市場仮説に従えば、株式取引は株式を常に公正な価格で取り引きしていて、投資家が株式を本質的な価値よりも安く買うことも高く売ることも出来ないということになる。何故なら、全ての情報が効率的に全ての投資家に行き渡っているため、一部の人だけが有する情報で得することも、損することも出来ないという意味である。従って、銘柄の選定や市場のタイミングから市場の平均以上の実績を得るアクティブ運用は有り得ないという仮説である。

5. 効率的市場仮説を信じるのか、信じないのか

「効率的市場仮説」という観点で論じれば、それを肯定する立場なら、市場は効率的だからアクティブ運用で勝ち続けることは出来ないため、如何に専門家と称する人たちに、高いフィーを払っても、人より高い収益を得ることは出来ないと考えることになる。逆に、「効率的市場仮説」を否定し机上の空論とするなら、市場には常に情報格差や遅延があって、故に価格には歪みやひずみがあるため、優秀な専門家が居れば、高い報酬を払ってもアクティブ運用で人よりも高い収益を得ることが出来ると考えることが出来る。

前者で考える人には、当然インデックス・ファンドなどのパッシブ運用の提案が妥当であり、後者のタイプのお客様は、パッシブ運用でインデックス・ファンドなどに投資するよりも、多少高いコストを払ってでも、優秀なアクティブ運用をした方が良いとお考えなので、厳選したアクティブ運用の提案が的を射たものとなる。

6. 過去の経験に依存する考え方

前項「効率的市場仮説」をあらためて考えて貰えれば、それがあくまで机上の空論かということは誰だって分る筈だ。この前提からアクティブ運用を否定して、パッシブ運用を肯定している人が居るとしたら、余程の夢想家が非現実主義者である。情報格差はあらゆるところに存在し、価格はその全てを瞬時に織り込んだりしていないのだから。ただ問題は、その情報格差から生じる価格の歪みを適時発見し、適切に判断し、瞬時に取り込む能力のある専門家以外さえも、専門家と称して仕事をしているという事である。故に、ここ数年のようにアクティブ運用がパフォーマンスを挙げられず、パッシブ運用が礼賛されるような事態が起っているといえる。業界が人を育てようとしなかった報いと言えば、それまでなのだが。そしてお客様もそうした似非専門家を見抜くことが出来ず、その投資判断による失敗に懲りているケースが、日本では数多累々と存在しているという事である。

7. 過去の経験値と効率的市場仮説の話を分離する

まずはお客様にきちんとアクティブ運用とパッシブ運用の違いを説明し切らないといけない。前述したように、効率的市場仮説に基づくものならば、情報格差は必ずあるので、アクティブ運用を好む人の方が多い筈だ。しかし、実際には過去の経験値から、専門家に高い報酬を払っても、それが報われることたことは無いという意味で、パッシブ運用の方を好む人の方が多くなる。

ただ、ここをきちんと分解してお客様のお考えを把握しておけば、またお客様にきちんと効率的市場仮説などを説明してあれば、優秀な専門家を見つけられれば、アクティブ運用を志向されるかもしれない。また逆に、いつまで経っても過去の心の傷は癒えず、パッシブ運用にしか結局はご興味を持たれないかもしれない。ただ、こうした情報を得るためには、お客様の過去の投資経験を諸々お聞きする必要があり、この辺りもきちんと把握出来るようになった時、お客様との距離はだいぶ近いものとなっていると思われる。