連載12 新入行員諸君!リスク商品でござる(お客様を知る_7)

4つ目の項目は「お客様ご自身は、自身の金融知識レベルをどう考えているか」という観点

前回までで3つの項目、「リスク許容度」、日々の市場変動に対する「落ち着き, 沈着, 平静、冷静さ」といった意味の「Composure」、そしてお客様がどの程度金融市場に関与しようかとされているかの「Market Engagement」という概念について綴ってきた。

全部で6つの項目について綴るつもりでいるので、この(お客様を知るコーナー)の半分が終わりいよいよ後半戦という事になる。前半3項目では、お客様がリスク資産への投資に対して、どのような投資特性を持っているかを中心に綴ってきた。後半の3項目では、お客様の投資に対する考え方を取り上げることになる。

1. お客様の金融知識は高いか低いか?

お客様と投資に関してお話をする上で、その言葉遣いひとつを考えても、お客様の受け取られ方は随分と違ってくる。金融マンたるもの、常にお客様の立場に立って、その言動を変えていかないとならない。

例えば;
近頃GPIFはアクティブ運用よりもパッシブ運用に傾倒していて、そのベンチマークとしてESG投資に役立つものを採用したらしいですよ。だからお客様もひとつ・・・

と切り出して、きちんと言葉を繋いでくれるお客様ならば、多分その先の展開も簡単であろう。ただ金融機関の人間にとっては常識であることが、一般の方には非常識であることが山のようにある。例えば、この例文で言えば、GPIF、アクティブ運用、パッシブ運用、ESG投資の4つは「日経新聞を読んでいるならわかるでしょう」と自分の常識で捉えるのはまず危険だ。ましてや「GPIF」を「ジー・ピー・アイ・エフ」と発音せずに「ジーピフ」などと言ってしまったら、一般的にはお客様の頭の上にはたくさんの?マークが横並びにならぶ筈である。

お客様の金融知識は千差万別、ましてや金融機関に勤めているものの常識は、概ね普通のお客様には非常識で伝わらないことが多い。そもそも、日経新聞を毎日読んでいるなどと言うのは、極々限られた業界の人間に過ぎないのが現実だ。

2. 実際の知識レベルよりも、知識レベルの自己評価が問題

だが本当の問題点は、お客様がGPIF、アクティブ運用、パッシブ運用、ESG投資といった言葉の意味を知っているかどうか(知識の絶対値)ではなく、お客様ご自身がご自身の金融に関する知識レベルをどのように評価しているかが問題だ。本質的な知識の絶対値など、簡単に分かりようが無いが、お客様がご自身をどう評価されているかは、少し会話をしてみれば大体わかるものだ。実際の知識レベルと知識の自己認識レベルについて、例を挙げて考えてみる。

(リクルーター面接の時を例に取ってみると・・・)

銀行入行後数年間、採用担当リクルーターなる役目を拝命していた時期があり、チーフ・リ  クルーターとして人事部面接前の最後の関門になったことがある。一日で300人以上の学生面接をこなし、その内の優秀だと思う30人を人事部に上げるという指令の下、学生5人対リクルーター2人の面接を行った。その時出会った学生の一人に「私はあの商学部三大ゼミのひとつ、○○先生の金融論のゼミでゼミ長をしており、そこで学んだ金融論を御行の発展に生かしたいと思っています」という自信満々の学生が居た。属人的な性格もあると思うのだが、相当に自信家であることは確かだった。私も少々大人げなかったが、そこでちょっと意地悪な質問を投げ掛けてみた。予想された回答パターンは3つ。①流石金融論のゼミ長、完璧とまでは謂わずともきちんと的を得た回答を返す、②分からないことを素直に認め、学生らしく「すみません、分りません」と回答する、そして③直球でない変化球を返すか、間違ったおかしな答えを返す。①なら当然問題なくOK、②でも学生らしく爽やかに出来たのなら好印象でOKだったのだが、なんとその学生は残念なことに堂々と自信満々③のパターンに走った。あまりに堂々としているので、こちらの誤りかと思ったほどだが、少なくとも好印象は残らなかった。

お客様と対峙しても、概ね同じようなことが起こる。①や②のような回答の時には、それぞれその後の話の展開に違いはあれど、きっと営業はし易いであろう。ただ時々③のタイプのお客様がいらっしゃるので困ったことになる。要するに、金融に関する知識は絶対値としては高くないのだが、自分は詳しいと思われている方の場合だ。では実際にタイプ別に簡単に対話方法のポイント等を検討してみよう。

A) 金融に関する知識は、実質的にも、ご本人の認識としても高い場合

富裕層ビジネスなどでよくあるのが、元投資銀行にお勤めだった方、または私のようなキャリアを持つ方などがこれにあたる。実際もし新入行員の皆さんや、まだ不慣れな営業マンがこれらの方々と対峙したら、知恵比べでは到底勝てるものでは無い。素直に教えを乞う気持ちで、即答出来ない事については、電話で支店にその場から問い合わせるか、帰店後直ぐに返答するようにする。ご本人も自分が特異な例であることは認識されているので、素直に「少々お時間をください。直ぐに調べてご連絡します」という対応で、殆どの場合、事無きを得る。時々「上司の人に、もっと知識のある人を担当に付けるように言っておいて」と言われる場合があるが、無理に食い下がってもその場合はまず時間の無駄となる。逆に中堅どころ以上の営業マンが、このタイプのお客様とはトラブルに成り易い。要は自分が前述③のタイプの対応をしてしまうからだ。専門家の前で「知らない、分からない」と言うのは決して恥ずかしいことでは無いし、大事なのは「無知の知」である。「無知の無知」や生兵法は大怪我の基であるということは覚えて置いて欲しい。

お薦めする商品は、ちょっと尖ったところを持つような商品が刺さり易いかも知れない。逆にそういう商品の評価をたずねるような言い方をすれば、逆にポイントを説明してくれる場合さえあるだろう。そして購入して貰えれば最高のディールとなる。

B) 金融に関する知識は、実質的にも、ご本人の認識としても低い場合

お客様は自分が金融について詳しくないことをよくご認識されている場合は、極力片仮名や専門用語を使わないように心掛けることが大事である。説明しながら、都度、相手の理解を確認するぐらいの気配りがあっても良い。間違っても、カタカナやアルファベットを多用して煙に巻くような対応をしてはいけない。その場ではニコニコ仮に聞いて頂けたとしても、決してお取引は発展しない。若しくは、何か金融商品をご購入いただけたとしても、後日「聞いてない」とトラブルになったりする。

お薦めする商品は、なるたけプレーンな分り易い商品が最初は良いと思われる。売却時の手続きが煩雑なものや、途中経過が見え難いものもお薦めはしない。複雑なシステムやデリバティブを使ったような商品は、適合性から考えても得策とは思われない。

C) 金融に関する知識は、実質的には低いが、ご本人の認識は高い場合

一番厄介なケースである。逆の場合でもそうだ。すなわち金融に関する知識は実質的には高いにも関わらず、ご本人の認識としても低い場合だ。実質とご本人の認識がちぐはぐな場合ほど、対応には神経を使う。ただご本人の認識が高い場合は、まずはきちんと専門的な説明を丁寧に行うこと。この場合は専門用語や片仮名を頻繁に使っても問題ない。ただ、実質的には低いのであれば「少々専門的なご説明になってしまいましたが、何かお聞きになりたいことはありますか?」など、お客様の身になって質問出来るような機会をつくり、フォローする位の気持ちが必要だ。一方、ご本人の認識が低い場合は、極力平易な言葉での説明を心掛ける。実際の知識が高い場合には、その後のやり取りの中で、徐々に実態に合わせたレベルに擦り合わせていくことも出来る。

どのパターンにも共通して言えることは、まずはお客様の自己認識の水準に合わせてトークを作り上げることである。当然、推奨すべき商品も同様である。ご本人の知識レベルの認識が高い場合は、それなりに複雑な商品をも売り込むことが可能であろう。逆にご本人の知識レベルの認識が低いにもかかわらず、デリバティブを組込んだような複雑な商品を提案しても、決して良い当たりは得られない。

3. 「よく分からないから、貴方にお任せ」は危険なサイン

より気を付けなければならないのは「よく分からないから、貴方にお任せしますよ」と投資判断の移譲をされてしまうケースだ。単純に喜んで「それではA商品にしましょう」などと決めてしまえば、不測の事態が起こった時に「銀行の方が決めたのに」とトラブルの原因になってしまう。あくまでも最終の投資判断はお客様に行って貰うのだから、お客様の自己知識の認識レベルに合わせたところから入り、きちんとご納得を頂いて投資判断をしていただくこと。一任取引になっては決していけない。