何故、全サラリーマンを確定申告に変えないのか

今朝の日経朝刊(8/14)の一面、結構な紙面を割いて「年末調整・ネットで完結」と伝えている。なんだか物凄い中途半端な政策に思えるのは、私だけでは無い筈だ。

1. 毎年、所得税、住民税、社会保険料など幾ら払っているかご存知?

普通のサラリーマンなら毎年の年末調整は、生命保険料控除や損害保険料控除のエビデンスを経理に渡せばそれで完了。あとは12月最後の給与明細を見て「お、今年は○○円戻ってきた」とか「えー、手取り減ってる」などと一喜一憂して終わりだ。その時、今年の給与手当の総額から何がどう天引きされたかまでは、多分気は回らない。医療費控除に別途挑む人も、頭の中は「○○円も今年はお産で病院代が掛かったから、幾ら取り戻せるだろう」ということぐらいの筈だ。肝心な、総所得に対して幾ら給与所得控除があって、税金や社会保険料が幾ら総額で天引きされたなど殆ど意識はされない。

2. 納税から始まる国家運営への参加意識

この国の現在の税制では、相当程度の割合で所得税や住民税を払っていない人が存在する。累進課税制度の下では当然と言えば当然なのだが、一方で、一人で公務員数人分の人件費を賄う程に税金を払っている人が、給与所得者の中でさえいる。勿論、高額納税者は確定申告をしているので、年末調整組とは別だが、通常給与所得のみの場合、確定申告と言っても作業する内容は年末調整とそう大差ない。何故なら、所得控除される項目が「給与所得控除」だけに近いからだ。それでも自分が今年幾ら税金を払ったか、追徴なのか、還付なのかという事は嫌でも真剣に意識される。そして「これだけ税金払っているのだから、きちんと無駄なく使って欲しい」という政治への期待値も変わる筈だ。ふるさと納税のお礼品に目くじら立てるなど、余りに目の付け所が鈍すぎる。

3. 米国は国民全員が確定申告する

日本と違って、米国ではサラリーマンも、自営業者も、農業従事者も、皆同様に確定申告をする。米国では上場している会計事務所のチェーン店があるくらい、一つの産業をも作り出している。だからこそ、米国では年末に向かって株式の売り注文が膨らんだりする。何故なら株式の損益通算をするためだ。年の前半に市場が跳ね上がった場合、その利益と失敗分を相殺するために含み損になっている株式を個人も一斉に売却する。根っこにある発想は納税義務に対するなるたけ節税したいという思い。故に、米国では誰しも自分が幾ら納税しているか、納税しないとならないのかを知っている。私はこれこそが米国の大統領選挙があれほどまで国中を巻き込む原動力の一つだと思っている。だから減税を唱える候補への期待は熱くなる。

4. 日本でもこれで両方のシステムが出来た筈だ

既にこの数年、日本でもe-TAXシステムなどと言って、自宅からWeb上で確定申告出来るシステムが稼働し、税務署側もこれの利用を呼び掛けている。更に、今回この年末調整用のシステムも出来たというのならば、中途半端な終わらせ方をしないで全員が確定申告する制度に変えたらどうなのだろう。しかしそう出来ない理由はサラリーマンの所得が白日の下に晒された、徴税の為の宝の山だからだ。税金のみならず、社会保険料についても、取れるところから取るという発想にピッタリなデータベースがそこにはある。そして冒頭触れたように、サラリーマンの多くが自らの総納税額や総社会保険料額には、大して興味が無い。その証拠が各種選挙の時の投票率の低さに現れ、都市部の無党派層、すなわちサラリーマンとなっている。農魚村部に無党派層が少ないのは、正にその逆の理由からだ。

5. 一定水準以下なら実質納税は必要ない

今年の税制ではその水準が幾らだったか思い出せないが、確か年収が320万円前後のレベルのところに所得控除や諸々の減税制度で実質納税額がゼロになる水準がある筈だ。世間の平均年収が400万円前後と言われているので、かなりな比率の国民が、実は関節税を納めていない。それを公平というか、不公平というかは意見の分かれるところだろうが、取れるところから取ろうという発想は止めるべきだ。もし全国民が毎年いじられる税制変更に敏感になれば、きっと無党派層なる悠長な無関心層は相当減ることだろう。たぶん、それは与党も野党も、現在の政治家には大変なリスクな筈だ。

6. 税制を変えて、一億総確定申告社会にすれば投資も増える

社説の隣には「投機か預金、育たぬ投資家」という記事があり、ビットコインなど仮想通貨への投機(記事中でそう言っている)を例に出し、何故、預金から投資に動かないのかという記事がある。折角一面トップで「年末調整 ネットで完結」と取り上げているのだから、税制面の話で掘り下げて欲しかった。ご存知「NISA」などの少額投資非課税制度が当局肝入りで導入されたが、それを讃えている場合ではない。前述のような損益通算の制度などをもっと改良し、損金(単年度ベースでは投資の失敗)を所得控除の対象にした上で総確定申告制度を採り入れれば、きっと貯蓄から投資への動きは加速すると思われる。

そんなビットコインで800万円の元手が3億円を超えるようになる話など、宝くじに当たるような話だ。それより寧ろ、所得総額に応じて累進制度で損益通算出来る範囲を拡大すれば、買った株や投信が上手く利益にならなくても、それを損金として所得から減額出来るので、納税額が減ることで損失が帳消しになり、投資のメリットが得られるようになる。正に米国の制度そのものだ。こういう提案は、税収入を維持したい当局サイドには決して受けいれられない提案だと思うが、NISAのような少額制度を幾らやっても本質的には焼け石に水である。その金額で喜ぶ層に、多くの個人金融資産は存在していないのだから。

7. ならば不足する税収をどこで補うか?

税収の不足を補う事を考えるより、無駄な補助金制度などを見直したら良い筈だ。農業従事者や自営業者はサラリーマンのように源泉徴収される所得ではないので、当局が正確な捕捉を出来ていない。学生時代、実家が農業を営む友人は、たっぷりと仕送りを貰いながら、実家の所得が低いという申請を書いて、無償の奨学金まで貰って麻雀ばかりしていた。その一方で多額の国費が減反政策や農業補助金に使われているのはご承知の通り。この辺りを見直すことにより捻出出来る範囲からでも、上述の損益通算制度を取り入れていけば、きっと税収不足は賄えると思うが如何なものだろうか?