連載9 新入行員諸君!リスク商品でござる(お客様を知る_4)

2つ目の項目は「Composure」(落ち着き, 沈着, 平静、冷静さ)という観点

正直な話、「リスク許容度」として分析される結果は、かなり金融機関側のご都合主義に思えてならない。何度も繰り返すように、たとえ株式投資の経験のある人でも、それが10年を超えるような長期投資を目指す資金であったとしても、損失が発生するのは嬉しくない。上がったり下がったり、ダイナミックに動く局面があることに関しては理解して受け入れることが出来る人でも、買値よりも値下がりして、損失が膨らんでいる時に、「お客様はリスク許容度が高い方ですし、これは長期投資ですから、特にご心配なさっていないですよね?」などとは言えたものではないからだ。お客様にリスクをご納得頂いた上で、株やデリバティブなどのハイリスク商品を買って頂いているというポーズを作るための、金融機関側の免罪符を作っているようにしか思えない。

だが、これから綴る「Composure」という考え方は、リスク商品をお客様にお薦めする上で、実に重要な着目点になると考えている。

1. 投資した後のお客様の投資態度は、程度の差はあるが、大きく2種類ある

英語で「Composure」と言うのは、辞書を引くと「落ち着き, 沈着, 平静、冷静さ」などと訳されるお客様の投資リスクに対する考え方のひとつで、把握しておくと大変重宝するものだ。これは「リスク許容度」の高低とは関係なく、やはり高い人と、低い人とが存在する。案外、これが一番商品をお客様に進める上で、最も重要な項目となる場合が多い。着目点は、過去の投資経験の話や、昨今の市場動向の会話の中で、どの程度日常の中に市場変動への気配りが行われているかなどで、これらを知れば程度を見極めることが出来る。
例えば「今持っている投信はいつ見ても同じような値段しかついていなくてね」とあまり日常的には気にしていないタイプが前者であり、「この間買った〇×投信は、上がったり下がったりが凄くて、毎朝基準価額を新聞で見ていて疲れちゃう感じよ」というような日々チェック型の人は後者の「Composure」が低いタイプの人である。

2. どういう人が「Composure」が高いか?

一概には言えないが、実社会のビジネスでリスクを取ることが多いようなタイプの人は、これも鶏と卵の関係と同じになるが、「Composure」が高い場合が多い。腹が座っているというか、肝が据わっているというか。アントレプレナー・タイプの人である。因みに私のような人間は当然ながら「Composure」はとても高い。でなければ、ファンドマネージャーなど務まらないから。なので、こういうタイプの人が社長の会社の場合、そのNo.2となる副社長や専務に「Composure」が低い人が居ると、リスク管理などがきちんと上手くいき会社の経営も安定する。謂わば「豊臣秀吉」に「黒田官兵衛」のような軍師の関係である。当然逆の場合もあるが、前者が新興企業、後者が大手金融機関ということも出来る。

3. 高くても、低くても、悪いわけじゃないのがポイント

日本語にすると「落ち着き」がある・ない、或いは「冷静さ」が高い・低いと曲解してしまって、「Composure」が低い方が悪いように思われてしまいがちであるが、行動経済学でみるところでは、一旦投資を始めた段階で、お客様がその投資対象の値動きに日々どう対応されるかということを見ている項目であり、高いから良くて、低いから悪いということは全く関係ない。

4. 高いと何が起こるか?

一般にこの「Composure」が高い人の場合、投資を始めてしまうと、市場がどう動こうがあまり気にしない。何故なら、色々なことを当初に熟慮して投資を始めたのだから、日々のちょこまかしたことで、いちいち一喜一憂したりしないという意味である。その為に充分吟味したのだから、初志貫徹とでも言おうか、動じないタイプである。だが、これが災いするのが、逆に本当にポジション変更などが必要な時でも、「このままで良いんだ」とほったらかしになってしまう可能性があること。こういう方には、担当の営業マンが状況の変化をきちんとご説明して、ポジションの変更を提案することになる。

5. 逆に低いとどうなるか?

一般論で言えば、日々の状況の変化にソワソワし「どうなってるんだろう」と落ち着かないタイプである。仮に「リスク許容度」が高かったとしても、市場が動いた時、正に今回の北朝鮮情勢のような時には、細かな電話フォローなりをして、逐一状況のアップデートをしてあげる必要がある。タイプとしては、銀行のマネージメント層のような人に多く、リスク管理をきちんとしてさえあげれば、特に問題は無い。この点を見極めておく必要がある。

6. 推奨する商品で注意を要する点

「Composure」が低いお客様に対してお薦めする商品で一番のポイントとなるのが、流動性/換金性である。たとえ「Composure」が低くて、日々の市場変動にハラハラドキドキしてしまう方でも、好きな時にいつでも換金出来ることが担保されていることを説明してあげれば、「リスク許容度」に即した商品をお勧めすることが出来る。
逆にいくら「リスク許容度」が高くても、流動性/換金性が低い商品をお勧めして保有して貰ってしまうと、市場が短期的にアン・フェーバーな状況になった時に「一旦ご売却されては如何ですか?」というセールスが出来ず、「売りたい時に売れないなんて、聞いていなかったぞ」と事故の原因になったりするので注意を要する。

>>>>連載10 新入行員諸君!リスク商品でござる(お客様を知る_5)に続く