ジャパンディスプレイ、おまえもか!!

今朝の日経朝刊一面(8/8)の記事を見て、あんぐりと口を開けて「やっぱりおまえもか」と呟いた人は多いだろう。シャープ、東芝と続いて、次はジャパンディスプレイ。その根底にある問題点は、実は常に一緒だ。

1. ジャパンディスプレイ、事業転換の遅れから外部資本受け入れへ

東芝の半導体事業売却の件で何度か綴ったことがあるが、液晶ビジネスの基本的なビジネスモデルは半導体のそれと一緒。つまり、目の付け所がシャープなだけでは事足らず、その意思決定が早くなければ競合他社に負けてしまう。その昔「もし1インチ当たり10,000円を切れたら、液晶は爆発的に売れる」などと予言されたのは僅か15-16年前。今や1インチが数百円の商品が店先に並ぶ。それ程までに価格低下の著しい世界が、半導体やディスプレイ事業のビジネスモデルだ。そこで勝ち残る唯一の手段は、経営の意思決定のスピードと言ってもいい。産業革新機構が関わる案件は、すべてその意思決定の遅さから、ゾンビ企業に延命治療の輸血を続けるだけの税金垂れ流しになりかねない。

2. ディスプレイ・ビジネスの肝は、如何に生産コストを競合より早く下げられるかだ

今やどこの家電量販店に行っても、テレビ売り場には50インチ、60インチ台の大きなディスプレイが、綺麗な映像を垂れ流しにして消費者の購買意欲を煽りたてる。正直、並べて比較してみると、色合いの好みや若干の映像の残像感などの違いが分かったりもするが、単品で観た場合、その差にいちいち不満を抱く消費者は少なかろう。事実、外資系ホテルの客室に置かれている大型テレビは殆ど韓国製だが、何の不満もなく映画やニュースを楽しんでいられる。つまり、キーワードは大きさと価格。当然最低限の画質クオリティは確保しているのが前提にはなるが、今や以前のように差はなく、画質やブランド名は今や選択要件としては二の次、三の次。これに気が付かないで「亀山ブランド」なるものに拘ったシャープは台湾企業・鴻海精密工業の軍門に下った。

3. 一歩先行く研究開発と設備投資が大切

生産コストを下げるためには、誰よりも早く大きなガラス面に画像出力の加工を施すことが出来る最新設備を導入し早期償却をし、生産面では必死に歩留まり向上を図ること。半導体事業とビジネスモデルが同じになるのは、ここで使われる技術が基本的にはCMOS技術と同じだから。韓国や台湾、或いは最近では中国企業の先行設備投資の意思決定は凄まじく速い。

4. 液晶から有機ELへ

有機ELでそもそも先行していたのはSONYだった。ただITバブル後の経営不振の中で事実上民生用からは撤退せざるを得ず、PANASONICにその道を譲っていた。そんな流れの中で、韓国SAMSUNGが一気に表舞台に飛び出してくる。恐らく優秀な日本の技術者の異動もあったのだろう。スマホが有機ELに傾倒していく中、朝刊一面の挿絵でも明らかな通り、有機ELパネル事業を行うJOLEDは産業革新機構から75%の出資を仰ぎながらも、ジャパンディスプレイとの合流は計画先延ばしのままだ。つまり有機ELはこれからチャレンジする話。

5. 人員削減と資本注入が本当の解決策か?

尻に火がついてやっと事態の深刻なることを気が付いた経営陣の判断は、1,500億円もの特損計上と4,000人の人員削減。その内3,500人は海外ワーカーなので、“日本人”に痛みは無いという発想だろう。本当にそれで良いのだろうか?経営陣自らが血を流さず、海外ワーカーならのそれなら構わないという発想か?そして特損部分は、産業革新機構の保証による銀行融資と第三者からの出資を募ることで延命しようとしている。これではまるで末期がん患者の終末医療と同じではないか。

6. 見えない経営陣、社長の名前を知っている?

産業革新機構についても同様だが、日経朝刊一面にその動静が報道される割には、ジャパンディスプレイの社長も誰だか顔が見えない。アップルの社長はティム・クック氏、Amazonの社長はジェフ・ベゾス氏、Facebookはマイケル・ザッカーバーグ氏、ソフトバンクは孫氏などなど誰が責任をもってその船の舵を握っているか、意思決定が早くて確りした会社は誰もが知っている。事実、記事の中にさえ、社長の名前は記載が無い。税金を2兆円以上も抱える産業革新機構の社長、或いはこれから更なる支援を受けようというジャパンディスプレイの社長の名前と顔がぱっと浮かばないのは私の不勉強のせいだけではあるまい。

7. 日本企業の絡む、合弁事業の難しさ

ジャパンディスプレイの当事者は日立製作所、東芝、そしてソニーだ。現状の3社の経営状況はさておき、3社の経営陣の入社時から現在に至るまでのDNAの中には、常に「天下の日立製作所」「天下の東芝」「天下のSONY」という思いが刷り込まれている筈だ。転職によるキャリアアップが日常の欧米企業と違い、終身雇用制度で這い上がる日本型企業の人事制度の下では、合弁事業における「異文化コミュニケーション」は極めて難しい。人事はたすき掛け、主要ポストは本体からの天下り、常に本体の統括部門の顔色を窺い、経営判断は本体の経営方針に左右される。ましてやそこに官僚型の産業革新機構が金と口を出すとなれば、その実態の混乱振りは想像するにおぞましい。

8. キャリアアップと責任完遂、転勤ではなく転職を

まずこうした合弁事業を行う場合、各母体からの人事的影響は完全排除しないと一体感醸成は無理だ。経験者は語る。当然、本体の移動人事に絡んだ転出入は一切無し。ある意味血判をついて本体を離れて貰い、事業が成功するまで一兵たりとも帰還を許さずぐらいの覚悟が必要。その代わり事業が軌道に乗った暁には本体の人事給与制度とは関係なく高額報酬も得られる可能性があるというようなことにしない限り、各社からの参加者のベクトルがひとつにならず、結局親の顔色ばかりを気にする意思決定の遅い組織を作ってしまう。すなわち、事業が成功すれば、本体に残るよりも高額報酬が期待でき、社長の給与は本体の社長の10倍になることだってあり得て構わないという構造だ。こうした転職文化と同じ文化風土を導入して初めてこうした合弁事業は成功するだろうが、日本では言うは易く行うは難しだ。